日本におけるカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致について、2021年は大きな動きが各地で起きました。しかし、新聞やニュースを見ていてもIR誘致に関していまいち何が起きているのかわからない現状だと思います。そこで今回、当サイトでは各地の取り組みや動きを2021年の出来事を中心にまとめてみました。
まず、IR誘致に関しては当初は8つの自治体により10ヶ所が名乗りを上げていました。その後、2019年11月に北海道が環境問題などを理由に見送りを表明、2020年1月には千葉市が災害復興優先などを理由に見送りを正式に発表しました。
さらに、大阪とともにIR誘致先の最有力候補地と言われていた横浜市は、市民や地元の有力者などの反対が激化し、さらに2021年8月にIR誘致反対派の山中竹春氏が新市長に就任をしたことで正式にIR誘致の撤回を公表しました。選挙公約でもIR誘致の反対を掲げていただけに、市民の声としても「横浜にカジノはいらない」という声が大きいことを証明してしまいました。(参照記事:いろいろあった横浜IR誘致をもう一度振り返る)
IR誘致の候補地の現状はどうなっている?
そうした状況の中、現在もIR誘致の候補地として残っているのが、東京(台場)、愛知(名古屋、常滑)、大阪(夢洲)、和歌山(マリーナシティ)、長崎(ハウステンボス)の5自治体6ヶ所となります。このうち、現状では最終的には特定複合観光施設区域整備法案で認められる3ヶ所が選ばれることになります。
現在、業者の選定や計画整備で一歩先を行っているのは、和歌山、長崎、大阪の3地域となります。それぞれの、現状はどうなっているのか解説していきます。
【和歌山県】
2004年からIR誘致を進めてきた和歌山は、他の地域に先駆けて2021年8月にカナダの『クレアベストグループ』と基本協定を締結、国への申請に向けて前進しました。また、米国のカジノ大手『シーザーズ・エンターテインメント』が共同事業体に参加することも正式に発表されています。(参照記事:和歌山のIR誘致に「シーザーズ・エンターテインメント」が参加表明)
和歌山は積極的にIR誘致を推進してきたものの、コロナ禍の影響による事業者の撤退や、同じくIR誘致を進めている大本命の大阪に近いということによる比較などから、やや苦戦を強いられている感がありました。
ただ、候補地であるマリーナシティにはすでに既存のリゾート施設が展開していて、インフラも整備されていることから初期費用という点ではメリットを持っています。また、関西国際空港からクルマで約45分という好立地な他に、電車やバスなどのアクセスが整備されていることもPR材料になりそうです。
(和歌山県IR基本構想(改訂版))
【長崎県】
長崎県も世界で唯一の国営企業で、カジノ事業者として最大規模を誇るオーストリアの『カジノオーストリア・インターナショナル(CAIJ)』と、2021年8月30日に基本提携を結びました。
テーマパークとして有名な『ハウステンボス』へのIR展開を計画している長崎は、地元の理解が進んでいることが特徴的です。IR誘致に対しては、地元住民のうち反対が約38%なのに対して賛成が約46%と僅かですが賛成が反対を上回っています。今後の活動で、この住民の意識がどのように推移していくかが気になるところです。(参照記事:長崎でIR「カジノオーストリア」と3500億円の基本協定)
また、長崎はロケーションという点で優れていて、中国や韓国から3時間程度で訪れることができるというアクセスの良さが売りです。海外観光客をターゲットにするというカジノの本来の目的から考えると、大変有利だと考えられます。特に、近年になって急激な経済発展を続けている中国からの観光客は極めて重要なファクターとなることは間違いないでしょう。
ただ、アジア圏には世界最大の規模と収益を誇るカジノ施設を持つマカオが存在し、さらにシンガポールやソウルといった数々のIR施設がすでに稼働していることが気になる所です。こうした並みいる競合といかに差別化を図り、集客力を高めることが課題となることは確実です。
(九州・長崎IR 基本構想(概要))
【大阪府・市】
2021年9月28日、大阪府・市はアメリカの『MGMリゾーツ・インターナショナル』と『オリックス』の共同体グループをIR事業者に選定したことを発表しました。これによって、誘致に積極的な3ヶ所のIR事業者が出そろったことになりました。(参照記事:大阪カジノの初期投資は約1兆800億円!大阪IR事業者に米カジノ大手「MGM」)
大阪は2025年に開催される大阪万博に先立ってIR誘致を実現し、知名度のアップなど期待していたものの、コロナ禍やその他の状況変化で計画推進は極めて困難な状況となっていました。
しかし、今回の『MGMリゾーツ・インターナショナル』との誘致に向けた活動では、公開された資料によると初期投資額は約1兆800億円と莫大な規模になると明かされました。
また、予定している年間来場者数は約2050万人(国内約1400万人、国外約650万人)、年間売上は約5400億円とし、2020年代後半の開業を目指すとしています。
この数字が実現するのならば、もちろん日本で最大のIR施設になるだけにやはり大阪が他の地域よりも一歩リードしていることになります。
(大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業 設置運営事業予定者の選定について)
このほか、愛知県が常滑市・中部国際空港のあるセントレア地区への誘致を表明してはいるものの、現状では保留している状態です。
一方、名古屋市が県とは別に誘致の意思を示していますが、実際には候補地すら絞り込むまでに至っておらず、大きく出遅れているのが現状となっています。
東京都も当初は、「お台場カジノ構想」がどこよりも早い時期から石原慎太郎氏によって掲げられていました。しかし、石原氏が都知事の時代には国会議員も巻き込んで大きな動きを作り出していたのですが、その後は知事が変わる度にIR誘致に関する取り組みが二転三転するようになります。
そして、現在の小池百合子都知事は新型コロナ対応が優先という流れの中で、IR誘致に関しては保留という状態をとっています。
ただ、東京五輪による収益が思っていたよりも見込めなかったことなどを考えると、景気回復策の一環として再びIR誘致が持ち出される可能性は十分にあると思います。
これからは、各自治体が事業予定者と一緒に『区域整備計画の作成』や『基本協定の締結協議』を進めていくことになります。
『区域整備計画の認定』について2022年4月28日まで各自治体が国に申請し、最大3ヶ所が選ばれてIR候補地として正式に認定されるという予定となっています。残り7ヶ月ほど、各自治体がどのような活動を展開していくか?
いよいよIR誘致をめぐるレースは後半戦へと突入したと言えます。